【SR】松嶋家の『殺意』


辺りをキョロキョロ見渡すでもなく、呑
気に鼻歌なんか歌いながら歩いて
来る父親には、緊迫感の欠片もな
い。


真っ直ぐ象の滑り台まで来ると、
何の躊躇いもなく小さな紙袋を置
いて行ってしまった。






「俺の事……
心配じゃないのかな…」


涙が滲んでくる。
俺は何の為にこんな事をしている
のか。
懲らしめてやろうという気持ちは
勿論ある。でも…
本当は確かめたかったのかもしれ
ない。
両親の愛を―――


韓国スターにうつつを抜かしてたっ
て、競馬にのめり込んでたって、
やっぱり一番大切なのは我が子な
んだと……
そう思ってくれていると感じたか
ったのかもしれない。
それなのに……


息子が誘拐されたというのに買い
物に出かける母親。
鼻歌まじりに身代金を運ぶ父親に
、茂男は心底落胆していた。


一度切れた感情の糸は、もう修復
不可能となり、まるで決壊したダ
ムのように涙が次から次へと溢れ
出す。
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