【SR】松嶋家の『殺意』


そんな茂男を見て哀れに思ったの
か、真紀子がめずらしく優しい言
葉をかけてくれた。


「自分の子が誘拐されて平気な訳
ないじゃない!
平然を装ってるのよ。
きっと内心は心配で心配で…
ご飯も三杯しか食べれてないと思
うわ!」


真紀子流の励ましに、茂男の胸は
熱くなる。


「そうだよな…きっとそうだよ!
いくら何でも、血を分けた可愛い
息子だもんな。
必死で平気なふりしてるだけだよ
な?」


うんうん、と頷く真紀子が天使に
……は見えなかったが、浮浪者に
見えた。当然だ。


「よし、じゃあちょっくら行って
くるわ。」


立ち上がり、後ろ姿で茂男に手を
振り真紀子は滑り台の方へ―――


もしかしたらもしかして、父親が
隠れてどこかで見張っているかも
しれない。
はやる気持ちを抑え、背中を丸め
て、人生に疲れた風貌を装う。


距離にして約十五メートル。
半ばまで歩を進めた真紀子の足が
ピタリと止まった。
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