年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 シンクにカップを置きながら、司に聞こえるように少し大きめの声を出す。置くだけ置いてリビングに戻ると、司はスマホの画面を眺めながら「よく知ってんな」と何も不審に思う様子もなく答えた。

「珍しいね。そんな遅い時間に撮影入れるなんて」

 すると司はスマホをしまいながら少し考えたように口にする。

「お前、ミッシェルって女優知ってるか?」
「んー……、ハリウッド映画に出てるあの日本人の子? 今日本に帰って来てるよね」

 俺が言うと、何故か司は少し驚いたように目を開く。

「なんだ。お前知ってたのか。俺、全く知らなかったんだけど」
「日本じゃ話題になったって弟が言ってた。たまたまアメリカ(むこう)で一緒に映画見たんだけど……って、まさかミッシェル?」

 今度は俺が驚く番だった。
 今まで何の接点もなくて、いくら同じ時期に同じ地にいようが、知り合う機会など無かった相手だ。

「何で突然司にオファーして来たのさ?」
「あー……、レイの紹介、だな」
「えっ? レイちゃんの?」

 俺はその名前により驚いた。
 俺達のニューヨークにいる友人。俺とは飲み友達みたいなもので、俺が振られるたびに辛辣な言葉を投げつつ、励ましてくれていたのは彼女だった。
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