年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 睦月さんに「何処か寄りたいところある?」って尋ねられても、「用事があるので帰ります」としか答えられなかった。
 用事なんて、本当はかんちゃんの散歩くらいしかなくて、それだっていつもの時間まではかなりある。
 でも、これ以上睦月さんと一緒にいて、もっと現実を知らされる勇気なんてでなかった。


「何かあった?」

 私にパウダーをはたかれながら、目を閉じたまま香緒ちゃんはそう尋ねる。

「……何もないよ?」

 私が力なく答えて手を下ろすと、香緒ちゃんは目を開ける。

 優しげで柔らかな顔。こんなに綺麗だったら、睦月さんと歩いてても恋人同士に見えるのかな? なんて、思ってしまって胸がズキリと痛む。
 香緒ちゃんだって、この容姿の所為で辛い思いをしたことがあるって知っているはずなのに。

「さっちゃん。悩んでるのって睦月君の事?」

 香緒ちゃんに背を向けて道具を片付けていると、香緒ちゃんの優しい声が後ろからした。

 私の気持ちを知っているから、やっぱり香緒ちゃんには隠し事なんてできないな……

 私が振り返ると、香緒ちゃんはふんわりと微笑んでいた。そして私は、その顔を見てゆっくり頷いた。
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