年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
「そんな顔しないで! 次行こ?」

 ちょっと落ち込んだ私の様子を気にすることなく、香緒ちゃんは笑いながら私の背を押す。

「あ、うん」

 なんだか私より楽しそうにしてくれている香緒ちゃんにつられるように少し明るい気分になりながら私は返事を返した。

 そして着いたお店。
 事情を話すと二つ返事でカウンターを使わせてくれる事になった。と言うか、せっかくだからデモンストレーションしてくれないかと店長直々にお願いされてしまったのだ。

「えっ! そんなの無理だよ! 香緒ちゃんにメイクするならともかく、自分にだよ⁈」
「大丈夫ですって! 綿貫さんがうちの商品使ってるところ見たいなぁ」

 いつも色々と融通を利かせてくれる店長は手を合わさんばかりに私にそう言う。

「じゃあ香緒ちゃんを……」

 振り返り香緒ちゃんを見ると、ニッコリ笑いながら「残念。今日はダメ~!」と拒否された。

「今日はさっちゃんがやらなきゃ意味ないからね? そうだ。自分に似た別の人をメイクすると思ってみたら? 服装だっていつもと違うでしょ?」

 そう言って香緒ちゃんは、私を励ますように両肩にポンと手を乗せた。

「……わかった。そうする」

 意を決して、私は香緒ちゃんにそう答えて鏡に向かう。
 初めて、自分を綺麗にするために。
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