年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 よし、できた

 心の中でそう呟いて私は筆を置いた。

 メイクのアイテムは今回新たに買ったものと、貸してもらったものを使った。どうしようか悩みつつ、やっぱりこうなったらちゃんとベースからやり直そうと、一度全部メイクを落とした。
 コンセプトは『ちょっと背伸びした大人の自分』なんて決めると、なんだか仕事モードに切り替わりやる気が出た。

 まぁ……とっくに大人だけど、背伸びしているのは間違いないから

 だんだんと自分じゃないような感覚になってきて、別の誰かにメイクしているような気分になりながら、何とか納得できるできになった。

 香緒ちゃんに見て貰おうと振り向いて、私はようやくそこで自分がたくさんの人に見られていたことに気が付いた。
 お店のスタッフさんだけじゃなくて、もちろん一般のお客さんにも。

「へっ?」

 人だかりに驚き過ぎてつい変な声が口から漏れ出る。そんな私とは対照的に、周りからは「凄~い! あのアイテム、あんな風に使えるんだ」とか「あのカラー良さそう」なんて声が聞こえてきた。

 これって店長の思惑通りってやつ? と思いながら、私は顔を引き攣らせて店長に視線を送ると、すこぶる笑顔が返ってくる。

「あのっ! 凄く素敵です! 良かったら私にアドバイスして貰えないですか?」
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