年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 皿に置こうとしたカップが勢い余ってガシャンと音を立てる。

「どう言うこと⁈」

 本日2回目の台詞を驚きと共に吐き出すと、あまりに煩かったのか隣のテーブルからジロリと睨まれてしまった。
 取り繕った笑顔を見せて隣の人に謝るように会釈してからまた武琉君に視線を送ると、ようやくカップに口を付けている武琉君が目に入った。

「何も聞いてないって、その相手に、だよね?」

 声のトーンを落として武琉君に尋ねると、カップを持ったまま少し安堵したような顔を見せた。

「そうなんですけど、香緒が、きっと睦月さんの為にあんなこと言い出したんだろうなって言ってて」

 未だに全く話が見えて来ず、俺が呆然としたままでいると、武琉君はカップを皿に置いてから真っ直ぐ俺を見て口を開いた。

「香緒、凄く張り切ってて。仕事で頼られたことはあるけど、プライベートで頼られたの初めてだって言ってました」
「それって……さっちゃんに、だよね?」

 確認するように尋ねると、武琉君は黙って頷いて見せる。

 ようやくだけど、何となく俺は察する。
 さっちゃんが香緒に何かを頼み、そして2人は今一緒にいるんだろう。きっとこの近くで。そして、武琉君は時間稼ぎに俺を呼び出した、そんなところなのかもと。
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