年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 俺は独り言のように口に手を当て呟いた。最後に会ったのは一体いつだっただろうか。

「ごめんさっちゃん。その店連れてって貰えないかな? 久しぶりに会いたいし」
「いいですよ? 結構近くです」

 店は本当にすぐ近くで、あっという間に着く。外側はガラス張りで、店の中の様子が見える。品のいい店内には、たまたまなのか客の姿はそうなかった。
 足を止めて深呼吸していると、隣でさっちゃんが俺を見上げて尋ねた。

「緊張……してますか?」
「あ、うん……。会うの15年ぶりくらいでさ、覚えてくれてるかな? って」
「そんなに?」

 さっちゃんは目を丸くしてそう言った。

 紫音は、昔時々香緒の撮影現場に来ていた。彼女の母が香緒の着ていた服を作っていたから、母が現場を見に来るとき一緒に。
 その時の俺の仕事といえばまだまだ香緒の送迎がメインみたいなもので、必然的に紫音が来ると両方の相手をしていたのだった。

 覚えられてなかったらちょっと寂しいなぁ、なんて思いながら扉を開けて中に入る。

「いらっしゃいませ!」

 振り返ってそう言ったのは間違いなく紫音。母にそっくりだからすぐにわかった。
 そして紫音は俺の顔を見るなり、こう言って俺の腕に飛び込んで来た。

「パパっ!!」

と。
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