年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 店内中の視線を集めたのは間違いなく、俺は焦りながら腕にしがみつく紫音に呼びかける。

「ちょっと紫音! 恥ずかしいんだけど!」

 ようやく顔を上げると、「あはは。ごめんごめん!」と言いながら、子供のように屈託なく笑った。


「それにしても……。パパの彼女が咲月さんだったなんてねぇ」

 3人で店の近くのカフェに移動する。目の前でしげしげと俺達を見ながら紫音はそんなことを言った。

「だからさ、パパはもうやめてよ。本当、何か悪いおじさんに見えるからさ」

 肩を落としながら俺が言うと、「え~!だってパパはパパだし」と不満げな顔を見せた。

「あの……何でパパなんですか?」

 隣でさっちゃんが小さく尋ねてくる。それに笑顔で返しながら俺は口を開いた。

「彼女のお父さんが凄く忙しい人で、約束してた遊園地に行けなくなってさ。代わりに連れてったんだけど、その時からパパって呼び始めたよね、紫音は」
「そうそう。まだ小学生になってなかったなぁ。高いところによじ登って大騒ぎして。で、代わりに連れてってくれたんだよね。懐かしいなぁ」

 見た目はすっかり変わったが、時々見せる表情は子供の頃と変わらない。紫音と同じように、俺もとても懐かしくなった。
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