年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
「だろうな。香緒も家でそう言っていた」
「ただ……その時のデータはさすがに欲しいって言えなかったんですけどね」

 希海さんとの仕事の時は、振り返りのためにその時のテストデータを送って貰っている。
 毎回私は家に帰ると、その日メイクに使用したものを全て書き留めるようにしている。そして、その時の画像データがあれば、振り返りが有意義なものになるのだ。
 けれど、さすがに初めて会った人に、いくらテストデータだと言っても、その人が撮った写真をおいそれと下さいとは言えなかった。

「別に……睦月さんは気にせずくれると思うが」

 希海さんは淡々とそう言う。
 確かに、言えば2つ返事でくれそうな雰囲気ではあったけど……。

 そう考えていると、不意に人影が現れた。

「何の話してんの?」

 あまりに突然で、思わず私は「ひゃっ!」と肩を揺らし驚いてしまった。

「何か俺の名前聞こえて来たからさ。ごめんね、驚かせて」

 そう言って、また人懐っこい笑顔をその人は見せた。
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