年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
「睦月さん。何故ここに?」

 希海さんは一切動じた様子を見せずに尋ねている。その内容から、希海さんも知らなかったんだと思った。

「ん~? 今日は希海が香緒以外を撮るって聞いたから見学させてもらおうと思って。なんせ俺、新人だから色々勉強したいしさ」
「……どうぞ。参考になるかは分かりませんが。……それより綿貫。さっきの話、睦月さんにしないのか?」

 明と暗、そんな対照的な表情を見せる2人を頭上で聞いていると、突然そう振られて、私は顔を上げた。

「えっ? 何? 何? さっちゃん」

 そこで私は大事な事を忘れている事に気づく。

どうしよう……どこかにヒントは……

 内心慌てているけど、多分今の私は可愛げのない仏頂面なんだと思う。
 そして、あくまでも冷静を装って口を開いた。

「あ、あの。睦月さん」

 そこまで言うと、ぱぁぁっと睦月さんの顔がより笑顔になった。

「あ、下の名前で呼んでくれるんだ。呼んでねって言っても、すぐに呼んでくれる子いないから嬉しいな」

 そう言って笑いじわを寄せたその顔を見て申し訳なくはある。まさか、苗字を忘れたから下の名前を呼んだなんて、口が裂けても言えなかった。
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