年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 一人静かな場所にいると、つい余計なことを考えてしまう。ふと最悪な状況を想像してしまっては、そのたびにそれを打ち消すように頭を振った。

 そうだ……。睦月さんの渡したいものってなんだろう? お見舞い? 飛行機のチケット?
 そんなわけないか、と思いながら、しばらく浸かっていた湯船から出た。

 全然思いつかないけど、たぶんこんなことがあったからこそ、睦月さんは渡したいと思ったのだ。

 結局なにも浮かばないままバスルームを出て着替える。あとで泊まる用意もしなきゃ。実家だし、最低限のものさえあればとりあえずなんとかなるだろう。睦月さんも……家に泊まってもらっていいかな? 真琴の部屋にもう一つお布団敷けるよね?

 本当ならもう少し先に訪れる予定だった実家。お母さんにはお付き合いしている人がいると伝わっている。気恥ずかしくて、わざわざ電話してまで伝えてはないけど、真琴からは『母ちゃん、喜んでるみたい』と聞いていた。

 こんな形で会わせるつもりはなかったんだけどな……

 そう思うと虚しくなって、慌てて持っていたタオルで頭をガシガシ拭いた。


「……睦月さん。お風呂、先にありがとう」

 リビングに戻ると、睦月さんはキッチンにいて、ちょうど紅茶のポットにお湯を注いでいた。

「もうすぐだから座って待ってて」
「うん」

 リビングの隅にはかんちゃんのゲージがあって、離れたところから中を覗くと、丸まってぐっすり眠っているようだった。

 ソファに座ると、気持ちを落ち着かせるように、いつもそこにあるぬいぐるみを撫でた。

「お待たせ」

 睦月さんはグラスを手にやって来る。その差し出されたグラスを「ありがとう」と受け取った。
 中身は、特製のミルクティー。お風呂上がりに睦月さんが時々作ってくれるのは、熱い紅茶に濃いめの冷たいミルクをたっぷり入れたもの。意外と、この温めのミルクティーは飲みやすくて気に入っている。

 それをゆっくり飲んでいる私を、睦月さんは隣で笑みを浮かべて眺めていた。
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