年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
「あの、睦月さん。渡したいものって……? 私、気になって」

 ミルクティーで少し喉を潤し、グラスをテーブルに置くと睦月さんに尋ねる。もしかしたら、余計なことを考えさせないように気を使ってくれただけなのかも、とふと思う。

 私の問いに、睦月さんは少しだけためらうような表情になるが、意を決したように深く息を吐いた。

「本当は……、こんな家の中とかじゃなくて、もっとちゃんとしたところで渡そうって考えてたんだけど……」

 そう言うと睦月さんは自分の背中側に手をやった。私から見えない場所を探るように手を動かすと、それを持って今度は私の前に手を差し出した。

「作ってくれた子が言ってたことを思い出したんだ……。届いた時が最良のタイミングだって。だからきっと、さっちゃんのお守り代わりになってくれるんじゃないかなって勝手に解釈した」

 睦月さんが開いた手のひらに収まるのは、白い小さな箱。何が入っているのか、言われなくても想像できるその大きさの箱を、思いがけない気持ちで見つめていた。

「さっちゃん」

 睦月さんの声に顔を上げると、真っ直ぐに私を見る真剣な眼差しがそこにある。

「これからも……ずっと、永遠に、俺のそばにいてくれる?」

 そう言って睦月さんはその箱を開けた。

 石は一緒に選んだ、今も肌身離さずつけているネックレスと同じもの。それはたった3ヵ月ほど前のことなのに、すごく遠い昔のようにも感じる。
そして、今目の前にあるのは、私の好きな深い海の色を閉じ込めた、小さな石で縁取られたエタニティリング。

 少しの間それに見惚れてから、顔を上げて睦月さんを見る。

「……私が永遠に一緒にいたいのは睦月さんだけです。ずっと……離さないでください」

 私の返事に睦月さんはすっと目を細めながら、箱から指輪を取り出した。
そして、私の左手を取るとそれをゆっくりと薬指に嵌めていった。

「……もちろん」

 そう言って指輪を嵌めた私の手をギュッと握る。

「離さないよ。永遠に。……愛してる」

 睦月さんはその言葉と、涙の零れる頰にキスをくれたのだった。
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