年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 先にベッドに入ってうとうとしていると、睦月さんが私を起こさないようにそっと布団に入ってくる。けど、やっぱりお父さんのことが気になっていたようで、すぐ目が覚めてしまった。

「起こしちゃった?」

 私が薄目を開けたからか小さく尋ねられ、「ううん?」と答えて睦月さんの胸に擦り寄った。

「あったかい……」

 無意識にそんな言葉が出る。いつも安心できて温かい睦月さんの腕の中。睦月さんは私を寝かしつけるように背中を撫でていた。

「……睦月さん……。手……握ってて」

 むずかっている子どものように、私は目を閉じたまま呟く。布団の中で睦月さんは私の手を探し当てると、優しく握ってくれる。

「おやすみ、さっちゃん」

 穏やかな睦月さんの声を聞きながら、私の意識は遠のいていた。


 目が覚めると隣に睦月さんの姿はなく、カーテンの隙間から柔らかな光が差し込んでいた。
 私は起きあがってベッドサイドに置いたスマホを手に取った。寝る前までに真琴から何の連絡もなかった。不安になりながらも画面の通知に目をやった。

『父ちゃん、まだ目は覚ましてないけど命に別状はなさそうだって』

 送られてきた時間は5時半。約2時間前だ。いつものように通知が来ない設定のままだったから気づかなかったみたいだ。

 よかった……

 スマホを抱えるように胸に納める。時間はかなり経っているし、もう目を覚ましているかも知れない。電話してみようかと思ったけど、病院内だと取れないかもと、『安心した。予定通りに帰るから。また連絡する』とだけメッセージを送った。

「そうだ。睦月さんにも言わなきゃ」

 ベッドから抜け出して寝室のドアを開け廊下に出ると、ちょうどのタイミングで玄関のドアが開いた。

「おはよう、さっちゃん。朝ごはん買ってきたよ?」

 かんちゃんと一緒に玄関に入ると、睦月さんは手に持っていた袋を笑顔で持ち上げて見せた。

「真琴から連絡あってね、お父さん大丈夫だって!」

 顔をみたらホッとして、睦月さんに駆け寄ると、そう言いながらその胸に飛び込んだ。
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