年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 俺は不思議な気分でその話を聞いていた。まるで、目の前でその光景を見ていたみたいに。

「真琴は棒を持ってきて取ろうと頑張ったんだけど取れなくて」
「……。そうだね。ここ、見た目より深いから入っちゃいけないもんね」

 肩越しにさっちゃんにそう言うと、さっちゃんは不思議そうに俺を見ている。

「そう。……なんで知ってるの?」

 確かに、遊泳禁止の看板はあったけど、理由までは書いていない。俺が知っているのは、昔そう教えてもらったからだ。ここで出会った女の子に。
 俺は笑みだけ浮かべてそれに答えることなく話を続ける。

「その話の続き、当ててみようか?」
「え? うん……」

 さっちゃんは顔を俺に向け、大きな瞳をより大きくしていた。

「その時、通りすがりのお兄さんが現れて、一生懸命帽子を拾おうとしました。けど、なかなか帽子に届きません。しかたなくお兄さんはもう一人お兄さんを呼びました」

 物語を朗読するみたいにさっちゃんに語りかけると、さっちゃんは黙って俺を見上げていた。

「そのお兄さん達は、なんとか帽子を取ろうとしました。でも、そこに大波が。お兄さん達はずぶ濡れに。でも帽子は無事に返ってきましたとさ。おしまい」

 俺は笑いながらそう締めくくった。
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