年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 香緒ちゃんと私が先に降りて、あとから希海さんが段ボールが山と積まれた台車を押して降りる。そして、それを見守るように、長門さんは眺めていた。

「何? 引っ越しか? つーか、いったい誰が越してくるんだよ?」
「あれ? 聞いてないの?」

 香緒ちゃんが意外そうにそう尋ねる。確かに、睦月さんならとっくに喋っていそうなのに。

「聞いてねーよ」

 そう言われて、私はおずおずと小さく手を上げた。

「私……です」

 そう言うと、納得したように「あぁ。綿貫か」と答えてから、長門さんは思い出したように声を上げた。

「って、もれなく睦月が付いてくんのか! あいつ、まじストーカーだな」

 顔を顰めた長門さんに、希海さんが溜め息を吐く。

「たまたま空きが出たのがこの階だっただけだ」
「えっ? 司もこの階住んでるの?」

 香緒ちゃんは知らなかったようで長門さんにそう言っている。そして、それに答えたのは希海さんだった。

「司の家は、綿貫の……いや、睦月さんの家の2軒隣だ」
「超ご近所さんだねぇ」

 香緒ちゃんが笑いながらそう言うと、長門さんは顔を顰めていた。

「あいつ、わかってて黙ってたな」

 私も長門さんの言う通りだと思う。絶対引っ越しの挨拶とか言って驚かせたかったに違いない。
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