年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
「……降りないんですか?」

 エンジンが止まり静かになった車内で俺は尋ねた。

「こんな足で砂浜歩けるわけないだろう」

 窓の外を眺めていた学さんからそう聞こえてきて「確かに……」と答えた。何を話していいかわからず俺は黙っていた。話があるのは学さんのほうだろうし。

「俺はな……。美紀子の人生を台無しにしたんだ」

 ポツリと学さんはそんなことを呟いた。

「台無し?」
「そうだ。本当なら、いい大学行って、いい会社に就職して、俺みたいなやつじゃなくて、もっとまともなヤツと結婚して。きっとそんな人生を歩んでいたはずなのに、俺が全部奪ったんだ」

 そう言うと、学さんは体勢を戻して前を向くと、シートに凭れ掛かった。その横顔はとても苦しげで、俺は何も言うことができなかった。無言でその顔を見つめていると、学さんはまた口を開いた。

「俺の親は、まぁろくでもないヤツでな。今も、どこで何してるか知らない。俺を育ててくれたのは、母方の祖母ちゃんでな、祖母ちゃんがいたから、いっとき荒れはしたがなんとか真っ当になれた。俺をガキのころから支えてくれたのは、その祖母ちゃんと、幼馴染の美紀子だ」

 そうやって、学さんの昔話しは始まった。
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