年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 淡々と学さんの低い声が車内に響いていた。それはお祖母ちゃんと美紀子さんとの思い出話だった。小学生の頃から高校生まで、どんな人生を歩んでいたのか。それを学さんは、まるで小説のあらすじを教えるように静かに語った。

「あれは高3の、もう1月も半ばだった。いつものようにお見舞いに行くと、看護師が俺を呼び止めた。先生から話があると。俺は退院の目処が立ったんだって思った。だが、聞かされたのはその逆だ。あと1年、持つかどうか。あの時ほど打ちのめされたことはない。就職も決まって、やっと祖母ちゃんに孝行できるって矢先だったに」

 そう言うと、深呼吸するように学さんは大きく息を吐き出す。

「さっき、明日香が言ってただろう。考えるより動いてみろって。あんな偉そうなこと言ったが、俺は馬鹿だから考えるより先に体が勝手に動いちまうだけだ。……その時も俺は、病院から帰ったその足で、美紀子の家に向かったんだ」

 窓の向こうに見える砂浜からは、波の音に混ざって、時々子どものはしゃぐ声が聞こえてくる。遠くに家族連れの姿があり、学さんはそちらになんとなく視線を向けた。
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