年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
「仰せのままに」

 独り言のようにそう言って、抱き上げると娘は嬉しそうな顔を見せている。

「よかったね。パパに抱っこしてもらえて」

 寝室に向かいながら、さっちゃんは笑顔で言う。それに「うん! パパ大好き!」とギュッと首にしがみつく。

「パパもだよ~!」

 きっとデレデレだろう顔で、娘の頬にキスをすると、きゃあきゃあ言いながら喜んでいる。それを相手にしつつ、俺はさっちゃんの耳元に唇を寄せた。

「さっちゃんにはあとでゆっくりね?」

 顔を離してその顔を見ると、頬を赤く染めている。もう2人子どもがいるのに、その反応は相変わらず可愛いと思う。

 寝室の子ども用のベッドに子ども達を入れると、2人とももう目がトロンとしている。それを脇からさっちゃんと眺めていると、半分目を閉じながら口を動かすのが見えた。

「パパ。はーちゃんも、お姫様になれる?」
「もちろん。それに、もうパパのお姫様でしょ?」

 頭を撫でながら返すと、半分夢の世界に向かいながら娘は続ける。

「パパは……王子様じゃないもん。王子様は……」

 そこまで言ってから、スウスウと寝息に変わる。

「へっ? え、王子様、誰?」

 俺が小さな声で真面目に寝顔に問いかけているのも見て、隣から呆れたようなさっちゃんの声がした。

「睦月さん? 本気で聞かないで?」

 それに「すみません……」と返しながら、俺達は部屋をあとにした。
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