年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
「荷物……重くないですか?」

 斜め後ろを歩きながら、さっちゃんが俺に申し訳なさそうに尋ねる。

「大丈夫だよ。こっちこそ、うちの子達がごめんね」

 そう言いながら笑う。
 車を降りて、自分で荷物を持つと引かないさっちゃんに、「今手に持ってるその子達と交換ね」と有無を言わさずバッグを持って歩き出した。

「どっち行けばいいの?」

 とりあえず、前にさっちゃんを送ったとき彼女が歩き出した方向に来たけど、そこからはわからない。

「この先を左に曲がってすぐなんです」

 本当にすぐ近くだったんだなと思いながら歩く。
 今度……があるなら家の前まで車で送ろう、そんな事を考えながら角を曲がった。
 一方通行の道沿いにマンションが並び、遠くにはコンビニの灯りが見える。3つ目のマンションの前でさっちゃんは「ここです」と止まった。

 振り返ると、両手でテディベアを抱きしめたままさっちゃんは俯いていた。
 目の前の、すぐ手の届く距離にいるさっちゃんを、彼女の腕にいるぬいぐるみのように抱きしめたら一体彼女はどんな顔をするだろうか?

 けれど、さすがに今そんな事をしても、さっちゃんはきっと困るだけだろう。
 そう思って、俺はバッグを肩から下ろして顔を上げた。
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