お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 いよいよ明日にはタリアレーナに着くと思うと、アイリーンの心は乱れた。
 長かったようで短い旅、一生恋することなど無いと思っていたのに、訪れた初恋。
 物の本に多く書かれているとおり、初恋は実らないとは、きっとこういう事とを言うのだろうと、アイリーンは見慣れた天井の模様を見つめながら考えた。
 明日からは、心を入れ替え、兄のウィリアムを探さなくてはならないし、まず、突然訪ねると言う、暴挙に出たことを叔母に説明し、デロスの王女としてではなく、デロスの王女から預かった侍女の一人程度の扱いで、極力、兄のウィリアムを探す時間を作れるようにしなくてはならない。

(・・・・・・・・お兄様、どこにいらっしゃるの? どうか、海の女神様のお導きで、お兄様に出逢えますように・・・・・・・・)

 アイリーンが考えていると、ドアーが開いてカルヴァドスが帰ってきた。
 本当なら、最後の晩ぐらい、少し語り明かしたい気もしたが、そうすれば、ますます自分はカルヴァドスに頼ってしまい、一人では何も出来なくなってしまうような気がして、アイリーンは目を閉じて寝たふりをした。
 側まで歩み寄ったカルヴァドスは、アイリーンが寝ているのを確認すると、アイリーンの額にキスを落とした。
「姫さん、愛してる。姫さんは、俺のすべてだから、幸せになってくれ」
 カルヴァドスは言うと、カウチに戻って横になり、蝋燭の火を消した。
 カーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされた室内で、アイリーンは寝たふりがばれないように、ジッと目をつむり続けた。


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