お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
侯爵邸で振る舞われた豪華な食事は、エクソシアのレストラン以来だった。
あの時は、目まぐるしいくらいすべてが輝いて、紳士らしいカルヴァドスに胸がトキメキ、アイリーンは夢見心地だった。
あの時と同じなのはそれだけでなく、船から降りた後遺症のようなもので、未だに世界が回っている事も同じだった。それでも、地面に足がついていることは実感できたし、窓から見えるのは美しい花が咲き誇る侯爵家の庭園で、大海原ではなかった。
「みんな、明後日には出航だって話していたわね。カルヴァドスさんも、旅立ってしまうんだわ」
声に出して言うと、自分が独りぼっちだという寂しさが募ってきた。
アイリーンは床に跪くと、海の女神に祈りを捧げた。
大海の北斗七星号の航海の無事と、カルヴァドスやドクター、アンドレやオスカー、親切にしてくれたクルーだけでなく、渋々とは言え、アイリーンを船に乗せてくれた船長の無事を祈った。
ノックがあり『はい』とアイリーンが返事をする前にドアーが開いてキャスリーンが入ってきた。
返事を待たないでドアーを開けるのは、アイリーンが侯爵の手前、使用人扱いだからだ。
「叔母様」
「これは! お祈りの邪魔をして申し訳ございませんでした」
祈りの時以外、王族が床に跪かない事を知っているキャスリーンは、慌てて謝罪した。
「大丈夫です、もう終わりましたから」
アイリーンは言うと立ち上がり、部屋に備え付けられたソファーの方へと移動した。
「食事は、お口に合いましたか?」
キャスリーンの問いに、アイリーンは軽やかに笑った。
「はい、とてもおいしく戴きました。船では、色々な物を戴きましまから」
「それにしても、お国のほうは?」
パレマキリアとのきな臭い噂はとっくにタリアレーナにも流れてきていた。
「私がダリウス殿下に嫁ぐことで、和平条約を締結することになりました。でも、お兄様がそれまでに王宮に戻らないと、大変なことになります」
「陛下は?」
キャスリーンの問いは、ある意味、当然のものだった。
「お父様は、半年ほど前に風邪をこじらせ、持病の心臓の具合が芳しくなく、ずっとお休みになっています」
アイリーンの説明にキャスリーンは目を見開いた。
「ああ、なんて事でしょう。では、政は殿下が?」
姫巫女としての勤めだけでも忙しい事を知っているキャスリーンは、アイリーンの苦しい立場を慮って言葉を飲み込んだ。
「お父様には、お兄様のことは一切お耳に入れても居ませんし、私の結婚の話もご存知ありません」
「それでは!」
余りのことにキャスリーンの顔がみるまに蒼褪めて行った。
「とにかく、速やかに、お兄様を見つけて国へと戻らなくてはなりません」
アイリーンが言うと、キャスリーンが力なく俯いた。
「ですが、大太子殿下の行方は依然としてしれないのです」
キャスリーンも人を雇って捜索していたので、そのことを説明した。
「お兄様のヴァイオリンは?」
「この屋敷に起きっぱなしです。ですから音楽院にも、登校してはいらっしゃいません」
キャスリーンの言葉に、アイリーンは母から貰った宝物のヴァイオリンを幸せそうに奏でる兄の姿を思い出した。
「お兄様は、学院の友人がトラブルに巻き込まれ、それで沢山のお金が必要だと手紙に書いていらっしゃいました。叔母上は、その友人にお心当たりはございませんか?」
アイリーンに問われ、キャスリーンはウィリアムが親しくしていた友人のことを話して聞かせた。
ウィリアムが友人として叔母のキャスリーンにまで紹介していたのは、皆男友達ばかりで、エクソシア出身の男爵家の子息や、地元タリアレーナの伯爵家の子息ばかりで、地元エイゼンシュタインやデロスに関わる人間とは接触していないとの事だったし、だれもそれなりに家柄もよく、お金に困ってウィリアムを頼るような家柄ではないとのことだった。
「お兄様が、外泊をされていたとか?」
アイリーンの問いに、キャスリーンは言葉を選び選び話し始めた。
あの時は、目まぐるしいくらいすべてが輝いて、紳士らしいカルヴァドスに胸がトキメキ、アイリーンは夢見心地だった。
あの時と同じなのはそれだけでなく、船から降りた後遺症のようなもので、未だに世界が回っている事も同じだった。それでも、地面に足がついていることは実感できたし、窓から見えるのは美しい花が咲き誇る侯爵家の庭園で、大海原ではなかった。
「みんな、明後日には出航だって話していたわね。カルヴァドスさんも、旅立ってしまうんだわ」
声に出して言うと、自分が独りぼっちだという寂しさが募ってきた。
アイリーンは床に跪くと、海の女神に祈りを捧げた。
大海の北斗七星号の航海の無事と、カルヴァドスやドクター、アンドレやオスカー、親切にしてくれたクルーだけでなく、渋々とは言え、アイリーンを船に乗せてくれた船長の無事を祈った。
ノックがあり『はい』とアイリーンが返事をする前にドアーが開いてキャスリーンが入ってきた。
返事を待たないでドアーを開けるのは、アイリーンが侯爵の手前、使用人扱いだからだ。
「叔母様」
「これは! お祈りの邪魔をして申し訳ございませんでした」
祈りの時以外、王族が床に跪かない事を知っているキャスリーンは、慌てて謝罪した。
「大丈夫です、もう終わりましたから」
アイリーンは言うと立ち上がり、部屋に備え付けられたソファーの方へと移動した。
「食事は、お口に合いましたか?」
キャスリーンの問いに、アイリーンは軽やかに笑った。
「はい、とてもおいしく戴きました。船では、色々な物を戴きましまから」
「それにしても、お国のほうは?」
パレマキリアとのきな臭い噂はとっくにタリアレーナにも流れてきていた。
「私がダリウス殿下に嫁ぐことで、和平条約を締結することになりました。でも、お兄様がそれまでに王宮に戻らないと、大変なことになります」
「陛下は?」
キャスリーンの問いは、ある意味、当然のものだった。
「お父様は、半年ほど前に風邪をこじらせ、持病の心臓の具合が芳しくなく、ずっとお休みになっています」
アイリーンの説明にキャスリーンは目を見開いた。
「ああ、なんて事でしょう。では、政は殿下が?」
姫巫女としての勤めだけでも忙しい事を知っているキャスリーンは、アイリーンの苦しい立場を慮って言葉を飲み込んだ。
「お父様には、お兄様のことは一切お耳に入れても居ませんし、私の結婚の話もご存知ありません」
「それでは!」
余りのことにキャスリーンの顔がみるまに蒼褪めて行った。
「とにかく、速やかに、お兄様を見つけて国へと戻らなくてはなりません」
アイリーンが言うと、キャスリーンが力なく俯いた。
「ですが、大太子殿下の行方は依然としてしれないのです」
キャスリーンも人を雇って捜索していたので、そのことを説明した。
「お兄様のヴァイオリンは?」
「この屋敷に起きっぱなしです。ですから音楽院にも、登校してはいらっしゃいません」
キャスリーンの言葉に、アイリーンは母から貰った宝物のヴァイオリンを幸せそうに奏でる兄の姿を思い出した。
「お兄様は、学院の友人がトラブルに巻き込まれ、それで沢山のお金が必要だと手紙に書いていらっしゃいました。叔母上は、その友人にお心当たりはございませんか?」
アイリーンに問われ、キャスリーンはウィリアムが親しくしていた友人のことを話して聞かせた。
ウィリアムが友人として叔母のキャスリーンにまで紹介していたのは、皆男友達ばかりで、エクソシア出身の男爵家の子息や、地元タリアレーナの伯爵家の子息ばかりで、地元エイゼンシュタインやデロスに関わる人間とは接触していないとの事だったし、だれもそれなりに家柄もよく、お金に困ってウィリアムを頼るような家柄ではないとのことだった。
「お兄様が、外泊をされていたとか?」
アイリーンの問いに、キャスリーンは言葉を選び選び話し始めた。