お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「金がないのか? なら、陸で働いて、お金を貯めてから乗るんだな」
「違います。お金はあります。でも、客船には乗れない事情があるんです」
「はぁ? 人が客船に乗れなかったら、何が客船に乗れるんだ? 馬か? 牛か? それとも犬か?」
 アイリーンは、先ほど助けてくれた男性に話したのと同じ話を船長に話して聞かせた。
「で、その、薄情な男にどうしても逢いに行きたいってか?」
 話のどこから、船長が相手を薄情な男だと思ったのかは分からなかったが、アイリーンは『はい』と答えた。
「止めときな。もう、とっくに新しい女をつくってる。行くだけ無駄だ」
 恋をしたことのないアイリーンには、なぜ皆口を揃えてそう言うのかが理解できなかったが、何としてもタリアレーナに行かなくてはいけないアイリーンは必死に船長を拝み倒した。
「なあ、お嬢さん。よく考えな。もし、その男が本当にお嬢さんを愛していたら、自分が留学に行くときに、お嬢さんに一緒にタリアレーナに行こうと言うのが男と女ってもんだ。お嬢さんがピンチになってから、男の後を追ったところで、男には新しい女がいて、お嬢さんは失望するだけだ」
 船長に諭すように言われ、アイリーンは設定を恋人ではなく、行方不明の兄にするべきだったと後悔した。
「どんな結果でも受け止める覚悟はあります。でも、この目で確認するまでは、親の決めた相手とは結婚したくないんです」
 船長は困ったように溜息をついた。
「船の上で働くってのは、男にだってキツイ仕事ばかりだ。お嬢さんに出来る仕事があると思うかい?」
「掃除とか、洗濯とか、あと、縫い物とか・・・・・・」
「それくらい、自分で出来なきゃ船乗りはつとまらねぇよ」
「お願いです」
「船ってのは一蓮托生なんだ。仕事をしない奴は乗せられない」
「どうか、お願いします。仕事も、今は出来なくても必ず覚えます」
 アイリーンは深々と頭を下げた。
「無理だよ。そんな細っこい腕で出来る仕事なんて、船の上にはねぇよ」
 アイリーンは立ち上がると、床に座って『そこを何とかお願いします』と言いながら土下座した。
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