お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「おい、お嬢さん。こんなとこで迷惑だよ!」
 船長が言いながらアイリーンを立ち上がらせようとしたところへ、足音が近付いてきた。
「船長、なに弱い者虐めしてんです?」
 声に聞き覚えのあったアイリーンは、驚いて頭を上げると声の主を振り向いた。
 そこに立って居たのは、さっきアイリーンを助け、この店に船長が言ると教えてくれたオレンジ色の髪の男だった。
「一等航海士・・・・・・。聞こえの悪い言い方は止めてくれ。このお嬢さんが船で働かせてくれと言ってきかないんだ」
「へぇ? このお嬢さんが? なに、働くって、俺らのエンターテイメントでもしてくれるって事ですか?」
 男の言葉に、アイリーンの顔が強ばった。
「いや、洗濯だの、縫いもんだの、掃除だのと・・・・・・。手が足りてるからと断っていたところだ」
「ふーん」
 男は言うと、片膝をついてアイリーンの事を見つめた。
 それから、アイリーンの頤に指を当てると、ゆっくりとアイリーンの顔を上向きにさせ、大きな緑色の瞳を見つめた。
 婚約者だったアルフレッド以外の男性とこんなに近くで見つめ合ったことがあるとしたら、今回の一件で結婚を無理強いしてきたダリウス王子くらいで、その時は不快感しか感じなかったのに、男の大きな黒曜石のように黒く星をちりばめたように輝く瞳に見つめられると、アイリーンの鼓動が不思議と早くなった。
 さっき助けて貰ったときは気付かなかったが、男はとても整った上品な顔立ちをしていた。

(・・・・・・・・こんなに素敵な人だったなんて、あの時は暗かったから全然気付かなかった・・・・・・・・)

 あまりに近くからじっと見つめられ、アイリーンは恥ずかしさに頬が熱くなっていくのを感じた。
「船長、このお嬢さん、乗せてやってくれよ」
 男が言うと、船長が驚いたように男のことを見つめた。
「本気か? 男ばっかりの船に、こんな若い娘を乗せたら、船の風紀が乱れるだろう!」
 言われてみれば、もっともな話で、アイリーンはそんな事も気付かなかった自分がとても愚かに感じた。
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