お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「カウチがあるんですか?」
 アイリーンは半信半疑で問いかけた。
「ああ、俺は航海士だから、部屋で海図を見るとき用に小さいのがある」

(・・・・・・・・同じ部屋って言うのは気になるけど、カウチに寝ればいいって事は、間違いが起こる心配は無いって事よね・・・・・・・・)

「どうする? 俺の提案を断ったら、船に乗せて貰うのは諦めた方が良いと思うけど・・・・・・」
 男の言葉に、アイリーンはゴクリと音がでるくらい、緊張しながら唾液を飲み込んだ。
「行き先は? 行き先はどちらですか?」
「タリアレーナ王国だけど・・・・・・」
 男の言葉にアイリーンの瞳が輝いた。
「乗せて下さい。お願いします!」
 アイリーンは思わず男の腕を掴んで頼んでしまった。
「じゃあ、俺の部屋で寝起きするって事で、船の上では俺達は恋人同士のフリをすること。これが条件だけど、良いよね?」
 改めて問われ、アイリーンは一瞬言葉に詰まった。

(・・・・・・・・恋人のフリって、どんな事をすればいいの? 船の上じゃ、散歩も出来ないし、一緒にお茶をするとか? ダンスとか?・・・・・・・・)

「どうする?」
 男は確認するように問いかけた。
「あの、恋人のフリって・・・・・・」
「まあ、フリはフリだから、無茶苦茶な要求をするつもりはないから」
「じゃあ、頑張ります」
「よっし! 決まりな! ってことで、あっと忘れてた、名前は?」
 男に問われ、思わず『アイリーン』と名乗りそうになったアイリーンは、言葉を飲み込んだ。
「あ、アイリ・・・・・・。アイリスです」
「アイリスね。よしっと。船長、そーゆーわけで、俺の恋人、アイリスを船に乗せるけど問題ないよな?」
 男は船長の方を振り仰いだ。
「か、カルヴァドスがそう言うならしかたがない。どうせ、ここで俺が断ったら、また、船を降りるとか言い出すつもりなんだろ?」
 船長の言葉に男がニヤリと笑って見せた。
「さすが船長、よくわかってんじゃん。って事で、アイリス。今日から、アイリスは俺の恋人な!」
 男は言うと、アイリーンをゆっくりと立ち上がらせた。
「俺の名前は、カルヴァドス・カスケイドス。ところで、アイリスのフルネームは?」
「あ、アイリス・ローラ・エンゲルバートです」
「んじゃ、船ではローラって呼ぶかな? それとも、アイリスが良い? 俺のことは、好きに呼んでくれてかまわないから」
「じゃあ、カルヴァドスさんで?」
「なんか、恋人っぽくないけど、取り合えずは良いか」
 カルヴァドスは言うと、アイリーンの腰に腕を回した。
「あの・・・・・・」
「ん? こんなの、恋人同士なら当たり前だろ? じゃあ、取り敢えず宿屋に行こうか?」
「えっ? 船じゃないんですか?」
「船は明日出向。陸に上がれる間は陸を堪能しておかないとな。一旦、海にでたら陸が恋しくてたまらなくなるから覚悟しておいた方がいいぞ」
 カルヴァドスは言うと、何か言いたそうにしている船長を置き去りにし、店を出ると表通りにある高そうな宿の扉をくぐった。
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