エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
第七章 クリスマスの花火
第七章 クリスマスの花火 


白石病院のクリスマスイベントは大成功だった。
毎年白石グループの装飾デザインの専門会社が会場の設営や装飾を手がけていて、今年も会場内はとても華やかだった。
ステージ上にはクリスマスツリーがどんと置かれていて、終演後はツリーの下に並べてあるプレゼントを子どもたちが取りに行くというお楽しみつき。
会場に来られない子どもたちには、プレゼントを抱えたサンタが病棟を訪ね、プレゼントを手渡していた。

「来年も参加したいですね」

一緒に参加した職場の仲間たちは一様に同じ言葉を口にし、クリスマス以外にも、定期的に演奏会を開催できないかと考え始めている。
もちろん珠希も参加するつもりだ。
とても素敵なクリスマスイベントだった。




「お兄ちゃん、お疲れ様。気をつけて帰ってね」

 珠希は拓真の控え室を訪ね、声をかけた。

「ああ、珠希もお疲れ。タクシーを呼んだから今から帰るんだ。悪いけど、こちらへのご挨拶は日を改めて伺うって伝えておいてくれ。じゃあな」

すでにコートに袖を通していた拓真は、慌ただしくそれだけを言い残し、控え室を飛び出していった。

「あれでちゃんとパパになれるのかな」

珠希は走り去る拓真の後ろ姿を眺めながら、肩をすくめた。
昨日から体調が優れなかった麻耶が、今日白石病院を受診して妊娠がわかったのだ。
拓真はそのことを演奏前に知り、興奮状態でステージに立った。
結果的には現役時代以上の完璧な演奏を披露し、喝采を受けていた。
久しぶりに表舞台に登場しただけでなく、ブランクを感じさせない素晴らしい演奏を披露したことで終演直後からマスコミからの問い合わせが殺到しているらしい。
しばらくの間は音楽業界からの復帰依頼が続きそうだと、今日のイベントを見に来ていた和合製薬の広報部長が頭を抱えていた。
そこに加えて麻耶の妊娠だ。
拓真はしばらくの間、気が休まらない日が続くのだろう。
拓真の幸せな未来を想像し、珠希は自然と顔をほころばせていた。


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