エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「それって、まずい」

珠希は顔をしかめ、何度か首を横に振る。
和合製薬が背負っている社会的責任を考えると、経営状況の悪化は見過ごせない。
和合製薬の薬剤によって生かされている患者のためにも、安定的経営は必須なのだ。
それがわかっているからこそ、珠希の父は少しでも世代交代時の混乱を小さくするために創業家による後継を進め、拓真か珠希に後を継ぐよう言い聞かせていたのだ。
結局、拓真がピアニストになるという夢をあきらめ、父の後継者としての道を選んだ。
それは、会社を順調に成長させていかなければならないという和合家の責任を、拓真が理解していたからだ。
そのおかげで珠希は今、講師として音楽教室で働いている。
本来ならピアニストとしての将来を期待されていた拓真よりも珠希が後を継ぐべきだったのに――。
珠希は絶えず抱えている拓真への申し訳なさに、唇をかみしめた。
そして同時に決意する。
今回は自分が家のために力を尽くす番だ。
テーブルの上で存在感を示す宗崎の連絡先を眺めつつ、珠希はひとまず見合いを受け入れようと、覚悟を決めた。



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