エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
けれど、拓真に夢をあきらめさせてまで音楽を続けるのなら、拓真の夢を自分が背負い、ピアニストになるべきだったのだろうかと、悩み続けてきた。
拓真はなにも言わないが、それを望んでいたのではないだろうかと何度も考えた。
それでも珠希は今の仕事が大好きだ。
子ども達に音楽の楽しさを伝え、豊かな人生を送ってほしい。
それが珠希の生きがいであり、音楽を続けたい理由だ。
〝演奏者の立場なんて、気持ちが込められた音の前では関係ない〟
碧の力強い言葉は珠希の音楽への思いをあっさり肯定し、長く珠希の心の奥底に抱えていた鬱屈した悩みを、一瞬で壊した。
「宗崎さん……」
碧の言葉がうれしくて、うまく言葉が出てこない。
「あ、あの……ごめんなさい」
珠希は涙を乱暴な仕草で拭うが、涙は次から次に溢れ出て止まる兆しがまるでない。
「なんでだろ、止まらなくて。どうしよ、せ、せっかくこれからおいしい鰻なのに」
珠希と拓真との事情などなにも知らない碧が、こんな取り乱した姿を見せられたら迷惑に違いない。
「ごめんなさい。意味がわからないですよね」
珠希は無理矢理笑顔をつくり、碧に顔を向けた。
するとそれまでなにも言わず珠希を見守っていた碧が突然手を伸ばし、珠希の手から二通の手紙を取りあげた。
「これ、涙で濡らすとまずいから」
まだ開封していない桜色の封筒が目に留まり、珠希は封筒を持つ碧の手を目で追いかけた。
「これは預かってきたメッセージカード。遥香ちゃんの寄せ書きにこのカードを貼り付けておくから、あとで書いてもらっていいか?」
碧は取りあげた封筒を座卓の上に置いた。
「はい、もちろんです」
今日碧とこうして会っている理由を思い出し、珠希は大きくうなずいた。
半年もの長い間入院していた遥香へのメッセージだ。
これからも続くリハビリを頑張れるように、そして近いうちにエレクトーンを一緒に弾けるように。
拓真はなにも言わないが、それを望んでいたのではないだろうかと何度も考えた。
それでも珠希は今の仕事が大好きだ。
子ども達に音楽の楽しさを伝え、豊かな人生を送ってほしい。
それが珠希の生きがいであり、音楽を続けたい理由だ。
〝演奏者の立場なんて、気持ちが込められた音の前では関係ない〟
碧の力強い言葉は珠希の音楽への思いをあっさり肯定し、長く珠希の心の奥底に抱えていた鬱屈した悩みを、一瞬で壊した。
「宗崎さん……」
碧の言葉がうれしくて、うまく言葉が出てこない。
「あ、あの……ごめんなさい」
珠希は涙を乱暴な仕草で拭うが、涙は次から次に溢れ出て止まる兆しがまるでない。
「なんでだろ、止まらなくて。どうしよ、せ、せっかくこれからおいしい鰻なのに」
珠希と拓真との事情などなにも知らない碧が、こんな取り乱した姿を見せられたら迷惑に違いない。
「ごめんなさい。意味がわからないですよね」
珠希は無理矢理笑顔をつくり、碧に顔を向けた。
するとそれまでなにも言わず珠希を見守っていた碧が突然手を伸ばし、珠希の手から二通の手紙を取りあげた。
「これ、涙で濡らすとまずいから」
まだ開封していない桜色の封筒が目に留まり、珠希は封筒を持つ碧の手を目で追いかけた。
「これは預かってきたメッセージカード。遥香ちゃんの寄せ書きにこのカードを貼り付けておくから、あとで書いてもらっていいか?」
碧は取りあげた封筒を座卓の上に置いた。
「はい、もちろんです」
今日碧とこうして会っている理由を思い出し、珠希は大きくうなずいた。
半年もの長い間入院していた遥香へのメッセージだ。
これからも続くリハビリを頑張れるように、そして近いうちにエレクトーンを一緒に弾けるように。