エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
心を込めて書かなければと、珠希はその場で深呼吸し、気持ちを整えた。
するとそれまで止まる気配のなかった涙が、徐々にひいていくのを感じた。
「お料理が運ばれてくる前に、書いちゃいますね」
珠希は泣き顔を隠すように碧から顔を逸らし、傍らに置いていたトートバッグに手を伸ばした。
「実は綺麗な色のペンをいくつか用意して……えっ」
バッグに伸ばした手に強い痛みが走ったと同時に、珠希の身体は大きな熱に包み込まれた。
「あ、あの……」
気づいたときには珠希は碧に抱き寄せられていて、見た目の印象よりも固い碧の胸に顔を押しつけられていた。
聞こえてくるのは碧の荒い息づかい。
そしてトクトクと規則正しい心臓の音。
「宗崎さん……?」
珠希はこれが現実とは思えず、碧の腕の中で目を瞬かせる。
これは夢かもしれないと考えつつも、掴まれた右手首にはかすかに痛みが残っている。夢ではない、まさしく現実だ。
それを認めた途端、珠希の心臓がとくんと大きく跳ね上がった。
「あ、あのっ」
珠希は慌てて身体を起こそうとしたが、背中に回されていた碧の手によって即座に引き戻される。
再び珠希は碧の胸に顔を埋め、碧の鼓動を耳にしていた。
「宗崎さん、あの、冗談はやめてください」
珠希の必死な声は、すべて碧の胸に吸い込まれてしまい、彼の耳に届いているのかどうかもわからない。
どうやら碧に珠希を解放するつもりはなさそうで、珠希は途方にくれる。
「冗談なんかじゃない」
碧の腕の中ぐったり肩を落とした珠希の鼓膜に、碧の声がダイレクトに響いた。
「冗談なわけがないだろう。冗談でこんなことするわけがない」
「……宗崎さん?」
おずおずと顔を上げた珠希の頬を、碧は手の平で優しく包み込む。
「……な、なんで」
すっぽり包まれた頬が、あっという間に熱くなる。
顔を背けようとしても、碧のもう片方の手が、一瞬早く珠希の後頭部に回された。
するとそれまで止まる気配のなかった涙が、徐々にひいていくのを感じた。
「お料理が運ばれてくる前に、書いちゃいますね」
珠希は泣き顔を隠すように碧から顔を逸らし、傍らに置いていたトートバッグに手を伸ばした。
「実は綺麗な色のペンをいくつか用意して……えっ」
バッグに伸ばした手に強い痛みが走ったと同時に、珠希の身体は大きな熱に包み込まれた。
「あ、あの……」
気づいたときには珠希は碧に抱き寄せられていて、見た目の印象よりも固い碧の胸に顔を押しつけられていた。
聞こえてくるのは碧の荒い息づかい。
そしてトクトクと規則正しい心臓の音。
「宗崎さん……?」
珠希はこれが現実とは思えず、碧の腕の中で目を瞬かせる。
これは夢かもしれないと考えつつも、掴まれた右手首にはかすかに痛みが残っている。夢ではない、まさしく現実だ。
それを認めた途端、珠希の心臓がとくんと大きく跳ね上がった。
「あ、あのっ」
珠希は慌てて身体を起こそうとしたが、背中に回されていた碧の手によって即座に引き戻される。
再び珠希は碧の胸に顔を埋め、碧の鼓動を耳にしていた。
「宗崎さん、あの、冗談はやめてください」
珠希の必死な声は、すべて碧の胸に吸い込まれてしまい、彼の耳に届いているのかどうかもわからない。
どうやら碧に珠希を解放するつもりはなさそうで、珠希は途方にくれる。
「冗談なんかじゃない」
碧の腕の中ぐったり肩を落とした珠希の鼓膜に、碧の声がダイレクトに響いた。
「冗談なわけがないだろう。冗談でこんなことするわけがない」
「……宗崎さん?」
おずおずと顔を上げた珠希の頬を、碧は手の平で優しく包み込む。
「……な、なんで」
すっぽり包まれた頬が、あっという間に熱くなる。
顔を背けようとしても、碧のもう片方の手が、一瞬早く珠希の後頭部に回された。