媚薬

目覚め 夏side

神戸のマンションに暮らし始めて2か月が過ぎようとしていた。毎日が穏やかに過ぎていく。

海斗(笹野)さんは夏を甘やかしてくれた。どこへ行くにも送り迎えをしてくれる。休みの日は必ずいろんな場所へ遊びに連れて行ってくれた。少しでも離れると、自分の事を忘れてしまうと思っているのか、夜は必ず抱きしめられて眠りにつく。

朝、目が覚めると一番に「俺の名前わかる?」と訊いてくる。

「笹野海斗」と夏が答えると、嬉しそうに額にキスをして、時間がある時はそのままベッドの上で愛し合った。

彼が仕事に行っている間、PCに残されていた写真やメモ、結婚式や新婚旅行の記録。領収書やレシート、映画の半券などから覚えのない記憶を、頭にインプットする。思い出せないが、新たに覚えることはできる。

海斗さんは事故に遭ってからの私の状態を細かく書き残してくれていた。
何度読み返しても、事故の怪我のせいとはいえ、恥ずかしい行動をしている自分に嫌気がさした。

それに付き合ってくれていた友人や両親にも申し訳ないが、何より海斗さんが自分に対してどれだけ献身的に尽くしてくれていたのかを考えると感謝の気持ちでいっぱいになる。
夏を介護する彼の様子が文章から伝わってきた。それは読んでいて苦しくなるほどで、もうこれ以上は彼に辛い思いをさせてはいけないと強く決心した。


彼が仕事に行っている間、PCに残されていた写真やメモ、結婚式や新婚旅行の記録。領収書やレシート、映画の半券などから過去を記憶にインプットする。思い出せないが、新たに覚えることはできる。

夏は海斗さんの事を少しでも多く知りたいと思った。彼の仕事の事や趣味、好きな音楽や映画、洋服の趣味に至るまで把握しようと努めた。

クローゼットはきちんと整理され、クリーニングもこまめに出されているようだった。家事代行サービスを頼んでいるのかと思っていたが、会社の秘書の人が有能らしく、いろいろ世話をしてくれているといった。

ハウスクリーニングの業者を頼んでくれたり、食事の管理も完璧にしてもらっているらしかった。
本来なら自分がする事なのにごめんなさいと夏がいうと、その分の給料もちゃんと払っているから心配ないといってくれた。








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