Liars or Lovers 〜嘘つき女と嘘つき男〜
 空がだんだん暗くなり、本物の星が輝き始めたころ。
 プラネタリウムを出た私たちは、ぶらぶらとウィンドウショッピングをしながら、駅に向かって歩いた。

 ああ、もう着いちゃうのか。

 お互い言わないけれど、多分駅に着いたら解散。
 もう少し一緒にいたい、だなんて可愛げのあるセリフを、30歳の私は年下の彼に言えるわけがない。
 プラネタリウムを出たときから繋がれたままの右手をぶんぶんと少しだけ揺らして、気を紛らわせた。

 離したくないなあ。
 そんな想いが、こもっていたのかもしれない。

「ねえ、美羽さん」

 声と共に、立ち止まる拓都さん。
 思わず引っ張られた右手。
 振り返ると、真剣な目でこちらを見つめる彼がいた。

「まだ、離れたくない」
「え?」

 私の気持ちが、伝わってしまったのか。
 ううんきっと、拓都さんも同じ気持ちでいてくれたんだ。

「嫌……?」

 不安げに首を傾げる拓都さん。
 途端に、私の頬の表情筋が機能しなくなる。

「嫌なわけ、ないよ」
「え?」
「私も、同じだから」

 頬がかぁぁと熱くなる。耳まで熱くなる。
 彼の目を見ていられなくて、あわてて俯いた。
 けれど、繋いだ手にこもる力が強くなる。

「良かった」

 拓都さんのその言葉が愛しくて、私もきゅっと、彼の手を握り返した。

 ◇  ◇  ◇

「ごめんね、おしゃれなバーとか知らないんだ」

 私たちがやってきたのは、チェーン店の大衆居酒屋。
 あまり土地勘が無いという彼に、私が提案できたのがこの店だった。
 それでも、全席半個室のところを選んだから、幾分マシだと信じたい。

「ううん、こういうところの方が良い。美羽さんを近くに感じられるから」

 そう笑いかけてくれる顔が、私の気遣いをも溶かしていく。

 年上だからって、背伸びしなくていいんだ。
 そう思わせてくれる、彼の優しさに胸がいっぱいになる。

 通された席は、テーブルの2辺が壁にくっついていて、私と拓都さんは斜めに向かい合う形に座る。
 ……はずだった。

「何で、ここ?」
「美羽さんのこと、もっとそばで感じたいから」

 半個室だからなのか、少し大胆になった拓都さんは、なぜか私の隣にピタリとくっついて座った。

 ジーンズを履いている彼の腿と、ロングスカートごしに私の腿が触れ合って、肩がピクリと揺れた。
 けれど、避けようと左に移動すれば彼も一緒についてくるから仕方ない。

 心臓持たないかも、と思いながら、隣に座る彼を盗み見ると、楽しそうにメニュー表を眺めていた。
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