Liars or Lovers 〜嘘つき女と嘘つき男〜

4 本音と彼の嘘

「ねえ、美羽さんはどうしてあのアプリ登録したの?」

 中生で乾杯をして、他愛も無い会話をしていると、拓都さんは思い出したかのように聞いてきた。

 けれど、それは私にとっては苦い記憶。

「あれね、妹が勝手に登録したの」
「え?」
「5歳年下の妹がさ、私の将来を案じて登録して。そしたら、生年月日だけ間違えて自分ので登録して」
「それで、25歳のフリしてたんだ」
「うん。騙すようなことになっちゃって、ごめんね」
「ううん、いいよ。電話でも伝えたけどさ、」

 拓都さんは、無造作にテーブルに置いていた私の右手を、自身の左手できゅっと握った。

「美羽さんは、美羽さんだから」

 その真剣な眼差しに、トクンと胸が高鳴る。

「ねえ、俺以外の人とも会ってる?」
「ううん。実を言うとね、拓都さんと会うことになったのも、間違えて画面タップしちゃったのが原因」
「え? じゃあ、俺のこと気になってアクション送ってくれたわけじゃなかったんだ」

 重ねられた手に込められた力が少し弱まって、私は慌ててその手をきゅっと握った。

「で、でもね、今は結果オーライだと思ってる! とっても、素敵な人に出会えたから……」

 こんなに恥ずかしいことが言えるのは、お酒の力なのか、恋の力なのか。
 拓都さんははっとして、それから私の握った手をきゅっと握り返してくれた。

「うん、じゃあ俺もラッキーだったってことで」

 またトクンと、心臓が跳ねた。

 拓都さんは? と聞きたかったけれど、なんだか余裕のない大人みたいで、言えなかった。
 だから代わりに、握り返された手にきゅううと力を入れてみる。

「俺もね、美羽さんだけ」

 テレパシーなのか、以心伝心なのか。
 爽やかな笑みを向けられて、ドクドクと私の胸の高鳴りは止まらない。

「でも、美羽さんは俺より年上だから……」

 ふっと、繋がれた手の力が弱まる。

「恋愛経験も、豊富だよね?」
「え?」
「いや、なんて言うか。ちょっと気になったっていうか、ちょっと嫉妬したっていうか。どんな人と付き合ってたのか、知りたいなって」

 頬を赤く染めながら、今度は拓都さんが俯いた。
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