【受賞・書籍化予定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?

魔術師と妖精のような少女


 ***

「……ここは」

 気がつけば、山の奥深くにいたはずの俺は、白い雲に囲まれていた。
 虹色の光が差し込んで、幻想的なその場所は、通常であれば美しい景色として、心に残るに違いない。 

 妖精たちが、うるさいほどに俺の周りを飛び回る。
 妖精たちが、人間に害を与えることは、ほとんどない。
 ただ、あふれ出して、おそらく枯渇するか暴発するまで止まらない俺の魔力を欲しているのだろう。

 気がつけば、小さく縮んでしまった体。
 時空に関する魔法を扱うこと魔術師の死因は、その魔法のコントロールを失ってしまった、が一番多い。

「……ふぅ。とうとう、終わりが来たかな」

 王国を襲った竜と戦い、追い返したまではよかった。
 まさか、せめて一矢報おうとしたのか、竜がありったけの魔力を俺に流し込んでくるとは……。

「……まあ、調度いいか。ここなら人もいないだろう」

 時空に関する魔力が暴発してしまうと、周囲にいる生き物の時間を巻き戻してしまう。
 自分も含めて……。

 だが、見たところ、この場所に入ることができるのは、魔力がものすごく高い人間か、あるいはそれよりももっと希有な、妖精に愛された人間くらいだろう。

 雲の切れ間が見えた次の瞬間、茶色い小枝がパキンと足下で音を立てた。
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