【受賞・書籍化予定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?

差し入れと鬼騎士団長


 翌朝、ほんの少し、はやる気持ちで、出勤する。今日のテーマは、星空とオーロラらしい。

「わあ!!」

 瑠璃色の夜空、瞬く星屑の光。

 幻想的な光景のなか、オーロラのような薄い生地を重ねたワンピースが今日の制服だ。

 ……本当は、初恋がテーマで、ピンクとフリルとハートいっぱいの空間になっていたはずの店内。

 裏事情はこうだ。

 昨日、ダリアに星屑の光がもうなくなりそうだと言われたお疲れのオーナーは、なんとか気力を振り絞り集めてきたらしい。
 けれど、そこで力尽きて、星屑の光が詰まった瓶をひっくり返してしまった。

 それは、閉店直後のことだった。

 半分ほどこぼれ落ち、天井にばらまかれた星屑の光を捕まえられるのは、魔力が高い人だけ。
 けれど、お疲れのオーナーは、すでに体力も気力もなく、テーマ変更となったわけだ。

「私は、むしろこっちの方が……」

 騎士団長様だって、初恋がテーマのピンクの空間よりも、こちらの方がお店に入りやすいだろう。

 見上げた星空は、本物よりもずっと近い。
 まるで手が届きそうだ。
 でも、どんなに手を伸ばしても、あと少しのところで星屑の光には手が届かなかった。

「これがほしいのか?」

 少し夢中になりすぎたのかもしれない。
 お店にお客様が来たことに気がつかないなんて、店員失格だ。

 けれど、魔力が高くなければ、簡単には捕まえられないはずの星屑の光を、いとも簡単に手中にしたその人は、私の手に、その光をそっと握らせた。
< 19 / 334 >

この作品をシェア

pagetop