【受賞・書籍化予定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
 たしかに私は、男爵家令嬢だ。
 でも、家は没落してしまい、幼い頃からの婚約も一方的に破棄をされ、逃げるように王都に来た。
 地震に、干ばつに、そのあとの嵐。そして、流行病。
 数年間繰り返した災害のせいで、実家のレトリック男爵家は完全に没落してしまった。

 ほんの少しのため息は、白い雲と虹で彩られた店内には似合わない。
 慌てて、口の端をあげて笑顔になる。

「……あら、お客様が本格的に増えてきたわね」
「そ、そうね」

 そういえば、どうして騎士団長様は、私の名前を知っていたのかしら?
 たしかに、繰り返した災害の時、騎士団の騎士様たちがレトリック男爵領を訪れたことはあるけれど……。もしかして、その関係で、私の名前を知っていたのかしら?

 お客様が、呼んでいる。
 私は、そんな考えを振り払って、ほんの少し急ぎ足で、注文を取りに行ったのだった。
< 5 / 334 >

この作品をシェア

pagetop