たとえば運命の1日があるとすれば
デザートのジェラートを食べ終えて、ノンカフェインのコーヒーを飲み始めた頃、滝沢さんがやってきた。

「こんばんは。来てくれてありがとう」

彼は私の隣の席に座った。

顔色を変えずにこっちがドキドキすることをするんだから、もう。

「レストランで副業っていうからてっきり料理作るほうだと思ってました。まさかギタリストだとは。料理食べるのに集中してて途中まで全然演奏聴いてませんでした」

「それでいいんですよ。僕のはあくまでもBGMなので。最後の曲以外は」

「……ありがとうございました。別れの曲に励まされるとは」

「どういたしまして」

やっぱり、私のために弾いてくれたんだと思うと、
……うわぁ、どうしよう、すごくうれしい。

「僕これから晩御飯食べるんだけど、時間に余裕があればもう少しいてもらえますか?」

そして、相手に求められることもうれしい。

「もちろんです! 時間はたっぷりあるので、いろいろお話きかせてもらいたいです」

「何なりと」

「滝沢さんご自身の話とか、ギターの話とか」

「はい。どうぞ」

「じゃあまず、滝沢さんが弾いてたのって何ですか? アコースティックギター?クラシックギター? これってどう違うんですか?」

「それ話し出すと、一晩中語りますよ?」

……顔色変えずにそういうこと言う!

「望むところです!」


失恋して、恋に落ちて。
人生には不思議な一日もあるものだなと思う。
もし未来から過去を振り返ったとすると、今日が運命が変わった1日だったと思い返すような気がする。


「僕が弾いてたのは……」

そんな一日は、まだ終わらない。

どんな一日の終わりになるのか、わくわくしながら彼の話に吸い込まれていく。



fin.




< 11 / 11 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:35

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

恋色シンフォニー

総文字数/101,757

恋愛(オフィスラブ)227ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
恋愛自粛期間中。 仕事と趣味(クラシック鑑賞)に生きる、 橘 綾乃(たちばな あやの)、28歳。 × 毎日がノー残業デー。 同期の地味男子、 三神 圭太郎(みかみ けいたろう)、28歳。 地味男子が、実は、 ヴァイオリン超上手かった! だけど、本性がこんなだなんて きいてない! 「何言ってるの。 僕の演奏きいたでしょ?」 演奏にはその人の本性が現れるというけれど。 そういえば、情熱的で色っぽかったっけ……。 「ありったけの愛を込めて、 君のために弾くよ」 同期の長調(ゆる甘)ラブストーリー。 ♪。♪。♪。♪。♪ 2015.11.21〜2015.12.31
愛と音の花束を

総文字数/187,071

恋愛(その他)340ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
周りからはよくクールだと言われます。 市民オケ、セカンドヴァイオリン パートリーダー。 本業、花屋。 永野 結花(ながの ゆか)、32歳。 × 最近、市民オケに入団してきた ヴァイオリン初心者。 性格、明るく、アツイ。 私が苦手なタイプ。 本業、歯科医師。 椎名 那智(しいな なち)、31歳。 ♫。♫。♫。 オフィスラブならぬ、 オーケストララブ、 略してオケラブ。 『恋色シンフォニー』『チェロ弾きの上司』 に続く長編オケラブシリーズ第三弾。 『恋色シンフォニー』の半年前から 話が始まります。 こちら単体でもお楽しみいただけます。 2016.8.27〜2017.7.2
turning

総文字数/9,855

恋愛(その他)18ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
かつて夢を諦めるきっかけになった人を 支える立場になって、 かつて一緒に夢を追って 忘れがたい思い出を刻んだ人と 再会するとは。 人生、何が起こるかわからない。 *** 将棋関連情報提供 木下瞳子様 ありがとうございました。 *** 2019.3.24〜3.31

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop