たとえば運命の1日があるとすれば
3.昼
昼の社員食堂はピーク時で混雑している。

早めにお昼休憩に入って席を確保していた私は、天ざるそばを半分ほど食べ終えていた。
これまでは無理矢理ざるそばをすすっていたのに、気持ちが晴れたとたん、天ぷらも食べられる。自分の身体ながら、不思議なものだ。

ふと顔を上げると、滝沢さんが目に飛び込んできた。
トレイを持って空いている席を探している。

ふふ、と心の中で笑ってしまった。
大勢の人間の中で、その人だけくっきり見える。
人間の感覚は本当に不思議だ。

滝沢さんと目が合った。
心が跳ねる久々の感覚を味わいながら、私は自分の隣の空いている席を示した。

彼は会釈して、こちらにやってきて腰を下ろす。

「ありがとうございます、助かりました」

「こちらこそ、先ほどはマウス交換ありがとうございました。おかげさまで調子いいです」

「それは何よりです」

彼は手を合わせてからお箸をとった。

やっぱり、優しくお椀を持ち、食べ物をつまみ、口に入れる。

いいなぁ。

沈黙でさえ、穏やかな空気が漂う。

あの人との沈黙の時間のように、ドロドロピリピリ不安にかられるものではなくて。

自然に呼吸できるような、リラックスできる空気。

「失礼ですが、滝沢さんは入社されたばかりですか?」

そこそこ社歴が長い私が、見かけたことはなかった。

「はい。今月からこちらにお世話になってます。ブラック企業からホワイト企業に転職できてよかったです」

「ホワイトでしょうか?」

「副業OKですし、その時間もとれるので、ホワイトですよ」

「副業?」
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