たとえば運命の1日があるとすれば
あ。そうか。
私、暗くてドロドロの泥沼の中にいたんだ。
気づかなかった。

機械を無意識に乱暴に扱ってしまっていたくらい余裕がなくて、普通の仕草を優しいと感じるくらい、優しくない状況に慣れてたんだ。

我慢せずに助けを求めたら、こうして助けてくれる人がいることにも、今気づいた。


「じゃあ、失礼します」

去ろうとする滝沢さんに、慌てて、渾身の笑顔でお礼を伝える。

「ありがとうございました! すっごく助かりました!」

顔の筋肉がひきつり、そういえば最近笑っていなかったな、と思う。

彼が去っていく姿に、あっ、と気づいた。

朝挨拶をしてくれた人だ。
私が背中を追いかけた人。



再び、さぁっと、泥沼に光が差し込んでくる感覚がした。

私は泥沼の底にいて、頭上の空には明るい光ときれいな空気、青空がある。


終わりにしよう。
この泥沼から出たい。
きれいな空気を吸いたい。
光を浴びたい。

私はスマホを手にとった。



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