年下男子
向かったのは近くのミーティングルーム。
ちょうど空いていた部屋がありそのまま入った。

「今朝の件、山本課長に頼んだんですね」

私が「どうかしたの?」と聞くより先に宮田君が口を開いた。
咄嗟になぜ知っているんだろうと不思議に思ったけれど、営業一課の宮田君なら知っていても当然かと思い直した。

「そうよ、山本課長とは同期だからお願いしたの」
「それだけですか?」
「それは・・・」

何だろう、この挑んでくるような気迫。
これはただ事じゃない。

「もしかして、宮田君怒ってるの?」
まさかと思いながら聞いてみたのに、
「ええ、怒っています」
真っすぐな返事が返ってきた。

「嫌だ、どうして宮田君が怒るのよ。もしかして譲ってもらった商品は宮田君が収めた分だったとか?」
もしそうなら余計な手間をかけさせられたと愚痴られても仕方ないけれど、上司である課長が納得して出したことだから文句を言われることはないと思う。

「あの人に近づけば蘭さんが傷つくだけだって、わかっていますよね?」
「えっ」

ギュッ。
心臓をつかまれたような息が止まるような感覚。

もう5年も経つのに、入社して数年しかたたない宮田君まで知っているのね。
そう思うとショックで、私はうなだれた。

「今日の昼、課長と蘭さんが食事に出たことが、女子社員の間で噂になっています」
「そう」
なるべく人目につかない店を選んだつもりだったけれど、見ていた人がいたのね。

「上層部はあなたと山本課長の動向に神経質ですから、何か言ってくるはずです」
「うん」
そんなこと言われなくても、覚悟はしている。

それを承知で、私は順と食事に出たんだから。
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