年下男子
「ご実家は和菓子店だったな?」
「はい。父で6代目になる小さくて古い和菓子屋です」
「実家を継ぐのか?」
「それは、わかりません」

父は職人の誰かと結婚させて店を継いでほしいみたいだけれど、そこまでは考えていない。
ただ、もともと病気を持っていた母が春先から入退院を繰り返すようになり、父と祖父母だけでは家も店も限界らしい。

「できれば春まではいてほしいんだがね」
「すみません、もう決めたので」

元々嫌いな仕事ではないから、冬で春までと期限を延ばせば辞められなくなる気がする。
だから来月8月末までに引き継ぎをしてあとは有休消化で秋の異動時期を迎えるつもりでいる。

「みんなへの発表は来月でいいな?」
「できるだけギリギリでお願いします」
しんみりするのは得意じゃない。

「修平君には?」
「わざわざ言う必要はないと思います」
「いいのか?」
「ええ」

とりあえずギリギリまでは他言無用ということで、部長も納得してくれた。
私もあと一ヶ月と言う時間に焦りを感じながらも、少しずつ引き継ぎの準備を始めていった。
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