竜人様に拾われました~転生養女は現世でも妻として愛されたい~

40.きずな君の記憶⑥【生まれ変わっても】

 無機質な部屋の中、俺は呆然と立ち尽くしていた。
 部屋の真ん中に鎮座するベッドに、誰かが眠っている。顔の上には白い布が被せられていた。


「奥様は即死でした」


 俺の後で誰かがそんなことを言う。心臓が止まってしまったかのように、身体が重く、動かない。促されてゆっくりと部屋の中に進む。


(奥様は即死でした……?)


 電話でも、同じことを言われた。俺の妻が――――逢璃が事故に遭って亡くなったのだと。

 だけど、そんなの何かの間違いだ。
 だって、俺達はほんの数時間前、入籍をしたばかりだった。きっと俺を誰かと間違えているんだろう。亡くなったのが逢璃であるわけがない。絶対、違うに決まっている。

 俺はスマホを取り出し、逢璃の番号に電話を掛けた。――――繋がらない。電源が入っていないらしい。部屋の隅に、逢璃が持っているスマートフォンとよく似たものが見える。事故の影響で壊れてしまったのだろうか。画面が大きくひび割れていた。


(違う……逢璃じゃない)


 今朝は、珍しく逢璃の方が仕事で先に出なければならなくて。
 いつも逢璃に見送られる側の俺が、「行ってきます」とそう言われた。


(違う……違う…………)


 逢璃である筈がない。俺は心の中で何度も何度もそう呟きながら、遺体に掛けられた白い布を手に取る。逢璃じゃなかったと、そう口にできることを夢見て。


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