月下の君には秘密です。


「お茶が入ったわよ~?家の中入りなさい~?」

おばちゃんの声が居間から聞こえて、俺たちは元気良く揃った返事をした。


居間のガラス窓から一人一人靴を脱いで上がり込む。

月ちゃんはジェントルマン。
井上を先に上がらせようと誘導していた。


「先にどうぞ?」

「…ぁ、有り難う…」

他愛もない、
そんなワンシーン。

「…you are welcome 」

そう呟き微笑む月ちゃんに、
井上は下を向き気味に照れ臭そうに笑っていた。

何、照れてんのッ!?

ちょっと…
少しだけ胸が痛んだ。


二番目は俺。
俺たちは一列になって順番を待っていたんだけど…

なんか知らないけど、
…検問があった。

俺の母さんが、
窓の前で立っていたんだ。



「紅茶には、ミルク?レモン?」

質問は、それだけ。

寒いんだから、
そんなの中に入ってから聞けばいいじゃんかッ!?


「…?あたし、レモン。」

そうそう…
井上は、いつもレモンティー。
そんなの有名な話じゃんかよッ。


「…はい、通ってよし!」

母さんは偉そうで、
俺はイラッと顔をしかめていた。


「――はぃ、次。」

俺が一歩進む。
俺にもわざわざ聞くの!?


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