僕の愛おしき憑かれた彼女

「彰っ、大丈夫だから」

「絶対ダメだかんな、早く乗れ」

保健室で目を覚ました私は、憑かれた記憶は、ほとんどなくて、彰達から聞いて、正直、驚いた。

用具置き場にピストルを片付けて、お札を見かけたところまでは覚えている。そこから、意識が、誰かに跳ね除けられたみたいに、遠ざかって記憶がない。

私のベッド脇で、泣いてる愛子を慰めて、駿介に強引に連れられて帰る愛子を見送ってから、自転車置き場で、彰との押し問答が続いていた。

「何回も言わせんな!ダメだ」

「だ、大丈夫。自転車位漕げるよ」

彰は、頑なに、私が自転車に乗ることを許してくれない。

「もう、元気だもん」

力こぶを見せながらアピールしても彰の大きな瞳は、きゅっと細められたままだ。

「砂月っ、俺がどんだけ心配したと思ってんだよっ、さっさと乗れ!」

彰は口を尖らせて、自転車に跨ったまま、私に後ろに乗るように目で合図する。

「お、重いから……」

彰の後ろに乗って帰るなんて、心臓が跳ね上がって家まで、とても持ちそうもない。

「重くねーよ、誰が保健室まで運んだと思ってんの」

彰は、私の鞄を取り上げると、自分のと一緒に前かごに放り込んだ。

「砂月」

名前を呼ばれて、観念した私は、彰の自転車の後ろに跨った。

どこをどう持とうか迷ってるうちに、彰の手が伸びて、彰のお腹の方へと両腕が回される。

「わ、彰っ」

「何だよ?」

振り返って、彰の顔が近くて、顔があっという間に熱くなる。

「しっかり捕まってろよ」

「う、ん」

彰は、顔が赤くなってる私を気にした様子もなく、ゆっくりと漕ぎ始めた。

彰の金髪が、月明かりに照らされて、お星様みたいだ。彰の背中がいつもより大きく、頼もしく見える。

こんなに彰の近くにいるのに、『好きだよ』の4文字が、どうして素直に言えないんだろう。

規則的にゆれる自転車が心地よくて、彰の背中からは、あったかいお日様の匂いがする。私は彰の背中にこつんと額を当てると、とくんとくんと高鳴る胸を抑えるように、彰に回した両腕に、ぎゅっと力をこめた。
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