僕の愛おしき憑かれた彼女
「ちなみに俺は!意外かもしれないが、牛乳至上主義だ!覚えておいてくれよな、ガハハハッ」

「あ、そうですか」

もう否定することすらも、馬鹿らしくなってきた俺は、素直に頷いた。

まんまじゃねーかよ、と呆れたような駿介の小声が真後ろから、小さく聞こえる。

「ところで、なんすか?」

肘を突いたまま、見上げた俺を谷口先輩が、ニヤリと笑いながら唾を飛ばした。

「陸上部、恒例の筋力トレーニングという名の肝試しだ!新入部員の登竜門でな!俺が引率するから、お前ら絶対来いよ!」

「え?」
「は?」

大きな口でガハガハと笑う谷口先輩を見ながら、俺と駿介の声が同時に発せられる。

「それ、マネージャーは無しでいいんですよね?」

先に口を開いたのは駿介だった。

「いや、マネージャーをおぶって、足の筋力を鍛えながら、夜の池を一周してもらう」

「砂月はダメです」

「愛子も無理です」

俺たちの即答に、谷口先輩が腰に手を当てると、途端に鼻息が荒くなった。

「お前らっ、たかが女の子おぶって池一周を嫌がるとはどうかしてるな!そんなことで、速く走れるようになると思ってんのか!」

谷口先輩の大きな声に、砂月と愛子が駆け寄ってくる。

「どしたの?彰?」

「あー……砂月には関係ない話だから」

きょとんとする砂月のとなりで、愛子の表情は曇っている。

「あの……谷口先輩、新入部員の肝試しのことですか?」

愛子が確認するように、谷口先輩に訊ねた。

「あぁ、毎年恒例だからな、今年もやろうかと思ってたんだが、コイツらのやる気のなさにウンザリとしていたところだ」

腕組みをしながら、谷口先輩がわざとらしく大きな、ため息を吐き出した。

隣の砂月が俺をチラッと見ながら、口を開く。

「場所は……どこですか?」

「おい、砂月っ」

「池か?ここから少し離れているが、たぬき池だ」 

(たぬき池……?あれ、それって、確か……)

「池って、その昔、誰か溺れたとかいう、たぬき池ですよね?」

駿介は、真顔で谷口先輩をじっと見つめた。

おそらく、駿介は、肝試しなんか行って、万が一、砂月が憑かれて、また愛子が、トラウマになっている、昔のことを思い出すのが嫌なんだろう。

(たぬき池か……それなら多分、大丈夫だ)

俺は、少し迷ったが、谷口先輩に視線をうつした。
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