僕の愛おしき憑かれた彼女
「昨日は本当に、ごめんなさい」

凛と背筋を伸ばして、謝罪する姿と綺麗な顔が合わさって、愛子に特別な想いがなくとも、勝手に心臓がとくんと跳ねた。

改めて見ると、相当な美人だと思う。

この間のように、他の学年の奴等が見に来るわけだな。愛子ちゃん綺麗だから先輩達からもモテるんだよ、と砂月が話していたのを思い出した。

「いや、俺も黙っててごめん。藤野には言っておけば良かったよな。……砂月は迷惑かけちゃいけないって言うのと、そんな体質信じてもらえないって思ってるから、その、藤野と仲いいだろ?変なこと言って、嫌われたくなくて話してなかったと思うし……」

そこまで聞いて、愛子がふっと笑った。

「すごい。あたしが砂月に謝ったとき、おんなじこと言ってた」

ポスっとストローを挿し、苺ミルクが窄められた唇から愛子の体内へと入っていく。

なぜだか、直視していられなくて、俺は目線を眼下に広がる、運動場へと目を向けた。

「春宮彰と砂月は、ほんと仲いいんだな」

 少し寂しそうに愛子が笑った。

「で、砂月はいつから?」

「三歳の時俺ん家の隣に越してきたんだけど、……今思えば、憑かれてたんだろうなっていうことは、やっぱ小さい時から、ずっとあったかな」

「そっか……えらいな砂月。ずっと色んなこと我慢してさ、でもちゃんと自分の体質と向き合ってる。自分と向き合うってさ、意外と難しいと思わない?私は……そういうのが苦手だから」

(向き合うか……)

「昨日は、あたしが取り乱して、驚いたでしょ?」

「あ、いや……」

「……駿介から聞いたんだ?」

歯切れの悪い俺の返答に、愛子は、察したようだった。

「私、大好きだったんだ。お姉ちゃんが……いつも味方してくれて、優しくて、愛子はそのままでいいんだよって言ってくれて。だから憑かれて苦しそうだった、お姉ちゃんのことがトラウマになっちゃって、誰かが、憑かれるのを見るのがコワイの」

愛子は、広がる青の空に視線を泳がせる。

「だから春宮彰が、砂月の為に一生懸命なの凄くわかる。本当に大切な人は、自分より大切にしたいものでしょ」

愛子が目を細めた。 

「まあな、でも駿介もさ、藤野にもっと楽にって……そう思ってんじゃねーの?」

愛子の事を話した時の駿介は、愛子のことを心から心配してら発せられた言葉のように感じた。駿介はら愛子に過去のトラウマから解放されて欲しいんだ。

「……どうかな。駿介がどんなにそうじゃないって言ってくれても。私のせいでもあるから……。でも本当、私なんかの……どこがいいんだろ」

「へ?」

俺は、素っ頓狂な声をあげた。
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