僕の愛おしき憑かれた彼女
そして、授業が始まってすぐに、後ろから駿介が椅子裏を蹴られる。

「今からラインするから、見とけよ」

俺は前を向いたまま、小さな声で返事をした。駿介は返事の変わりに、軽くコンと椅子裏を蹴った。

ラインを打ち終わり、喉が渇いていたことに気づいた俺は、ポスっと小気味のいい音を立ててストローを挿しこむと、体温と同じくらいに感じる苺ミルクを一気に飲み干した。

甘ったるさの後に甘酸っぱさも感じる。

思わず、えずきそうになった俺の背中を見ながら、駿介のクククッと笑いを堪える声が聞こえた。



「ごめん、遅れた」

 放課後、屋上で待っていたら愛子が、軽く息を吐きながら、遅れてやってきた。

「いや、さっき来たとこだから」

 俺は、愛子が手に苺ミルクを抱えてることの方が気になった。

「何?気に入った?あげようか?」

「いや、大丈夫、朝はサンキュ」

 今飲んだら、朝の苺ミルクの味を思い出して、俺は、吐くかもしれない。 

 屋上の最端の無機質な鉄柵に、両腕を乗せると、透き通った青空が雲ひとつなく、ただ際限なく広がっている。

俺の真似をするように愛子も、華奢な右手だけ鉄柵にかけると、こちらを真っ直ぐに見つめた。
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