僕の愛おしき憑かれた彼女
「で?何がききたい?俺に聞きたいことがあって待ってたんだろう?」
父の切長の瞳は、職業柄だろうか、息子の俺でさえも、目力に吸い込まれそうになる。
「……あ、実はさ、陸上部の歓迎会かねて、たぬき池に肝試し行くんだけど、あれ、父さん祓ったって言ってたよね?」
俺は、おそるおそる訊ねた。
「たぬき池……あぁ、昔、溺れた女性の霊が居てね、神札だけでは、祓えなかったから、池の中央に社をたてて、更に中に強めの神札を貼ってある」
「砂月、行っても大丈夫だよな?」
父は、湯呑みの緑茶を口に含みながら、唇を持ち上げた。
「問題ない。まず砂月ちゃんが憑かれることはないだろう」
ほっとした俺の顔を見ながら、父が立ち上がると、木製の書類棚の1番上から、神札を取り出した。
「まぁ、砂月ちゃんは、憑かれやすいからな、念のため、お前にこれを一応渡しておく」
「え?俺、使ったことねぇんだけど?」
「そうだな、お前の今の力なら、この神札を砂月ちゃんに貼って、いつもの祓いの言葉を言えば大丈夫だろう」
「貼り方は?」
「憑かれたら、勝手に神札の方から張り付いていくから大丈夫だ」
「分かった、ありがとう」
神札をもって、立ち上がった俺を、父がじっと見つめた。
「彰……大切な人は、しっかり守ってやれ」
俺は大きく頷いていた。
「父さん……俺は、何があっても砂月を守るし……色々な事を……絶対、あきらめないようにするから」
俺は、河野さんから聞いた、自分の名前の由来をあえて口にした。
父さんにも、いつか、病気とはいえ、守りきれなかった母さんのことを、乗り越えてほしいから。
大切な人のために、乗り越えることを諦めてほしくないから。
父の切長の瞳が大きく見開かれた。
「彰、お前変わったな……砂月ちゃんのおかげだな」
「うん、砂月が居なかったら、俺、全然ダメだからさ」
俺が立ち上がり、おやすみ、と言って扉を閉める瞬間、小さく、おやすみ、と久々に父の挨拶が返ってきたのが、聞こえた。
父の切長の瞳は、職業柄だろうか、息子の俺でさえも、目力に吸い込まれそうになる。
「……あ、実はさ、陸上部の歓迎会かねて、たぬき池に肝試し行くんだけど、あれ、父さん祓ったって言ってたよね?」
俺は、おそるおそる訊ねた。
「たぬき池……あぁ、昔、溺れた女性の霊が居てね、神札だけでは、祓えなかったから、池の中央に社をたてて、更に中に強めの神札を貼ってある」
「砂月、行っても大丈夫だよな?」
父は、湯呑みの緑茶を口に含みながら、唇を持ち上げた。
「問題ない。まず砂月ちゃんが憑かれることはないだろう」
ほっとした俺の顔を見ながら、父が立ち上がると、木製の書類棚の1番上から、神札を取り出した。
「まぁ、砂月ちゃんは、憑かれやすいからな、念のため、お前にこれを一応渡しておく」
「え?俺、使ったことねぇんだけど?」
「そうだな、お前の今の力なら、この神札を砂月ちゃんに貼って、いつもの祓いの言葉を言えば大丈夫だろう」
「貼り方は?」
「憑かれたら、勝手に神札の方から張り付いていくから大丈夫だ」
「分かった、ありがとう」
神札をもって、立ち上がった俺を、父がじっと見つめた。
「彰……大切な人は、しっかり守ってやれ」
俺は大きく頷いていた。
「父さん……俺は、何があっても砂月を守るし……色々な事を……絶対、あきらめないようにするから」
俺は、河野さんから聞いた、自分の名前の由来をあえて口にした。
父さんにも、いつか、病気とはいえ、守りきれなかった母さんのことを、乗り越えてほしいから。
大切な人のために、乗り越えることを諦めてほしくないから。
父の切長の瞳が大きく見開かれた。
「彰、お前変わったな……砂月ちゃんのおかげだな」
「うん、砂月が居なかったら、俺、全然ダメだからさ」
俺が立ち上がり、おやすみ、と言って扉を閉める瞬間、小さく、おやすみ、と久々に父の挨拶が返ってきたのが、聞こえた。