僕の愛おしき憑かれた彼女
「彰、おつかれ様。お前はスタミナがないタイプだな、また特別メニューを考えてやるからな!ガハハッ」

谷口先輩に、出迎えられてゴールした時には、既に、駿介は、髪をかき上げながら、ペットボトルの水を喉を鳴らして飲み干していた。

すぐそばにいた愛子は、砂月に駆け寄ると、嬉しそうに微笑んだ。

「砂月、おかえり!無事でよかった」

にっこり笑った愛子の顔は、初めてみたかも知れない。元々が美人だ、愛子の笑顔は、俺でさえも、心臓に悪い。

「ありがとな」

駿介が、俺の肩に手を置くと、唇を持ち上げた。

「え?」

「愛子のトラウマだけどさ……今日のことで、和らぎそうだわ。あんな笑った顔久しぶりに見たから」 

駿介が、切長の瞳を嬉しそうに細めて、愛子を眺めていた。 

「お互い様だろ、この間、砂月祓ってもらったし」

駿介が軽く拳を挙げて、俺たちは、初めてグータッチをした。

「おい、お前らも来い」

谷口先輩が、リュックの中から、丸い塊を取り出すと、俺たちに、ぽいっと、放り投げた。

「おっと」

慌てて両手で俺はそれを受け取った。

谷口先輩から、投げられたのは、真っ赤なリンゴだった。

「ばあちゃんの家が農家でな、リンゴを、もいでから、ここに来たんだ。頑張ったお前らに、もぎたてリンゴのプレゼントだ」

ニッと笑うと、大きな口で、がぶりと齧り付いている。

「やっぱゴリラだな」

駿介がジャージの胸元で、リンゴを拭くとシャリッと音を立てて咀嚼した。

俺も、真似して齧り付く。見れば、愛子と砂月も仲良く談笑しながら、齧り付いていた。

「うまいな」

「なぁ、リンゴの花言葉の一つにさ、『選ばれた恋』ってあんの」

「どした?急に」

思わず、隣の駿介を見ながら、俺は、一旦リンゴの咀嚼を止める。

「愛子が言ってたの思い出してさ、恋に選ぶも選ばないものなくね?」

確か、愛子に駿介は2回告白して、振られてると言っていた。駿介の告白を断った愛子は、過去のトラウマから、自分の恋を駿介に選んでもらう自信がなかったのかもしれない。

「まあな、恋なんて自分じゃどうしようもねーじゃん」

「だな」

綺麗にリンゴを食べ終わった駿介が、夜空を見上げながら、口角を上げた。

いつか砂月に俺の想いを伝えた時、俺との恋を砂月は選んでくれるだろうか。

さっき願い事をしたばかりの夜空を見上げながら、俺は、しばらく星の煌めきを、ただ静かに眺めた。
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