虜にさせてみて?
「私こそ、響となんか暮らしたくない」

響は不器用だから、ひねくれた意地悪な事ばかり言ってくるのは知ってるし、認めてるつもりだった。

でも、その余計な一言が無性に腹が立つ時だってあるんだよ。

たまにはごまかさないで、響の言葉で私を安心させて。

“好きで居てもいいんだよ”って、“一緒に居てもいいんだよ”って、確信出来る言葉で。

私は靴ずれをして痛い足を無理矢理動かして、響を置き去りにして先に歩き出した。

「ごめんって……」

「私は響の素直な気持ちが聞きたいの。都合が悪くなると誤魔化したり、意地悪言うの止めて」

「面倒な女だな」

「そんなのは、とっくに自分でも分かってるよ。だから駿には猫被って、良い子のフリしてた。結果的に飽きられたけどね。けど、響とは包み隠さず本音で話したいんだよ」

駿の前では偽り気味だった自分。

響の前では自分の気持ちを素直に言える。

だから、響にもきちんと向き合って欲しいの。

永遠に一緒に居られるか、居られないかは別として。

一緒に居る間は、お互いを知りつくしたいの。

勿論、響が話してくれるまでは過去の事はとやかく聞かないよ。

響が心を開いてくれている分だけで良いから、心の内を知りたいの。

「分かった。だったら、俺の気持ちも受け取れよな。来いよっ」

早足で歩く私を追いかけて歩いていた響は、手を伸ばして私を側に引き寄せる。

今度は繋がれた手を響に引っ張られて、歩き出す。

「痛いってばっ」

強く繋がれた手が痛くて、まるで響の怒りが込められてるかのようだった。

「だったら、逃げんなよっ」

真剣な眼差しで、顔を覗き込むように言われて私はコクリと頷いた。

やんわりとした繋ぎ方に変わり、無言のままに歩き出して駅の改札へと向かう。

切符を買う時とコインロッカーから預けた荷物を取り出す以外は、手を離さずに歩いていて、いつしか足の痛みを忘れていた。

予約していたホテルにチェックインを済ませて荷物を置くと、響が「こっちに来いよ」と私をベッドに横たわらせた。
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