虜にさせてみて?
お腹が空いている事よりも、真実が気になってラウンジの扉を勢いよく開ける。

「響っ!……あ、湊君も居る」

「お疲れ様、ひよりちゃん」

勢いよく開いたドアに驚きつつも、いつもと変わらない笑顔の湊君。

湊君は売り切れたケーキの補充分を運んで来たらしく、響とパントリーに居た。

「騒がしい奴だな、お前。食事に行ったんじゃなかったのかよ?」

「それどころじゃないんだもんっ! ねぇ、君と響はどうして相部屋なの?」

丁度良いタイミングで、湊君が来てくれて良かった。

思っていた心の内を湊君にぶつける。

お願いだから、真実を教えて。

「美奈から何も聞いてないの?」

ちょっと困った顔をしながらも、真っ直ぐにわたしを見て答える湊君。

私は、コクンとただ頷く。

「そっかぁ。美奈が怒るかもしれないけど言うね。俺達ね、別れたんだよ、ついこないだ……」

別れたとは、一体どういう事?

私は動揺を隠せずに、ただ立ち尽くす事しか出来なかった。

「隠すつもりじゃなかったんだけど、俺ね、東京にある系列のホテルに志願したんだ。人員に空きが出て、面接も終わっていて来年の4月からは向こうで働くんだ」

「え? 東京のホテルに行くの? でも、それでも美奈と別れる事なんてないでしょ?」

私は美奈達の相思相愛な関係に憧れていたんだよ。

東京までの距離は新幹線で一時間と少しあれば行けるのだからん、二人ならば乗り越えて行けると思う。

「ひよりちゃん、美奈がそう望んだんだよ」

言いにくい事だろうに、こんな時でも湊君は柔らかに笑うんだ。

それが余計に痛々しくて、私の心にガラスの破片を突き刺されたかのよう。

美奈はどうして諦めるの?

会った時から、あんなに大好きだった湊君を簡単に手離してしまって良いの?

湊君は?

湊君もどうして、美奈を繋ぎ止めようとしないの?

二人が遠距離になった位で、離れなきゃいけないなんて絶対に嫌だよ。
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